『成熟脳』

脳のこと

 私たちの行動は、どうやってでき上がっているのでしょうか?
 時代や国や地域、文化、教育など、さまざまな要素が折り重なって私たちの行動が形作られている。

 では、その大本は?

 究極的にはやはり“脳”ということになるのでしょうか?

 うーーん、もちろん”脳”がかなりのウェートを占めているんだろうけど、それだけっていうのもなんだか味気ないような。

 しかし、時代はAI=人工知能。
 これもまた機械で作った”脳”の研究。

 やはり”脳”なのか・・・。

 ”脳”というと、最先端の研究。まだまだ未知の世界。

 それを機械に代行させるAIもまた最先端。

 本書は、元AIの研究者が語る”脳”にまつわるエッセイ集。

 脳を研究する大脳生理学者、例えば養老孟司氏や池谷裕二氏、さらには最近よくテレビなどで見かける中野信子氏などが有名であるけれど、AIの側から脳を見つめてきた人は少ないかもしれません。ということで、とても興味深いお話が聞けるのが本書のたのしいところ。そして、それがとても分かりやすく、ためになり、かつ面白おかしく読めるところがよいところであります。

 究極的には”脳”の”脳”による”脳”のための人間社会なのか?はたしてそれだけでいいのか?などなど議論が出てくるが、本書は唯脳論へのもうひとつの提案。

唯脳論からの解放

 脳についての本をいくつか読んだことがある。
 養老孟司氏、池谷裕二氏、中野信子氏などなど。
 どれも確かになるほどなと思うところも多い。でも、どの本も、人間て結局のところ脳に支配され、脳に騙され、脳を中心に生きているのか・・・という感じの諦観に陥る。仕方ない、脳の仕組みがそうなっているんだから仕方ない、そういった諦め。しかも著者は頭がいい人達ばかりだから、ああそうですか、そうですよね、はいはい、と聞くしかないのが正直悔しい。

 でも、本当にそれでいいの?

 人間てそんなものなの?

 脳がそういう仕組みになっているから、それでいいの?

 脳の本を読んだ後は、どうも私は不機嫌になる。ためにはなるんだけど、気分的にはどこか曇り空なのだ。

 しかし本書は、タイトルに違わず脳についてのお話しなのであるけれど、軽いエッセイ風であるからか、とても読みやすく、すっと内容も頭に入ってくる。でも、かといってその中身が浅いわけではない。深いところにもしっかり触れているのでためにもなり、なるほどなと思ったり、とにかく感心するところが多い。そして大事なのは、そこに人間がいるところだ。脳の本はとかく脳だけで終わってしまう。脳について書いている著者は、どこか冷めている、いや醒めているといったほうがいいのか、人間を扱っている感じがしないことが多い。

 本書は、脳について書いている本であるが、脳にとどまらない人間の本であります。脳の本に疲れた方は、こちらの脳の本で脳を開放してみてはいかがでしょうか。

年齢とともにリニューアルする脳

 脳の寿命ってどんなものなのだろうか?
 脳細胞の数は20代半ばでピークを迎え、その後はどんどん減っていくという。脳細胞の数をそのまま脳力というならば、それは正しいのだろう。

 しかし、だとしたら、人生の大半は下り坂ではないか。

 そんなの納得できない。
 だから脳の本は嫌なのだ。
 20代が終わったら、人生を、人間を、全てを諦めろとでもいうのか?

 しかし、本書はそうではない。
 脳の発達過程を説いている。

 本書も、脳細胞の数は20代でピークを迎えると、教科書的なことが書いてある。

 でも、そうじゃないんだってことだ。

 年を重ねるごとに、脳は次の段階に入っていく。うまく、上手に使っていけば、年齢とともに成熟していくのだ。

 脳が年齢とともにバージョンアップしていくというお話は、私はこの本で初めて知りました。なんだ、まだまだこれからじゃないか!と、とても励まされるのであります。

 年齢とともに脳の機能もシンプルに変化していく。
 それに抗ってしまうのではなく、その流れに任せていく。
 その流れに応じた脳の使い方をしていく。
 さらに言えば、その年齢ごとの段階に備えて、今できることを脳のために支度をしていく。

 本書は脳ののことを書いているのですが、人間という人生をトータルで俯瞰してくれる内容で、いい道しるべになると思います。若い人は若い人なりに、中年は中年らしく、そして若い人は中年や老年を理解してもらう、また逆に中高年も若者を無暗に叱ったり煙たがるのではなく、人として必要な時期を過ごしているのだとわかってもらう、そんなジェネレーションのギャップを埋める内容にもなる、様々な面で役に立つ一冊ではないかと思います。

著者のその他の本

これまでのレビュー

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レビュアープロフィール

瀬戸 郁保
瀬戸 郁保
コガネブックス店主

本が好きで、ついつい買ってしまう。。
本業は鍼灸師・国際中医師で、東洋医学畑の人間です。
体について、心についてといった本業に関係する本を読むことが多いですが、その他にも旅、食べ物などいろいろと。
東京の表参道で源保堂鍼灸院の院長をしている。
また、登録販売者であり国際中医師でもあり、薬戸金堂という漢方薬店の店主でもある。

1件のコメント

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