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『セルフ・クライシス』 石田春夫著

Last updated on 04/04/2021

新型コロナウイルス・ワクチン陰謀説?

 新型コロナウイルスのワクチン接種がはじまりました。

 今回の新型コロナウイルスのワクチンについて、日本は各国と比べてみると、その接種を否定的に感じている人が多いそうです。

 その理由には、「副作用・副反応がどのように出るかわからない」といった安全面に対するものや、「本当に効果があるのだろうか」という効果への疑問というのが多いようだ。そもそも日本は公衆衛生としてのワクチン政策が遅れている国と言われているが、これは、これまで発生したワクチンの後遺症に対する物心両面での国のケアが不足してきたからではないかと思うところもあるが、そういう国民性と言ってしまえばそんな気がしないでもないです。

 本ブログはブックレビューであって、ワクチンの是非を問うものではないので、その疑問はそれはそれでそっとしておきますが、このようなワクチン接種後の副作用や後遺症といった抵抗がある一方で、疑問や批判の根拠のなかには、さまざまな陰謀説が元になっていることも少なくないようです。

 たとえばその一つが、ビル・ゲイツが人口を減らすためにやっているんだというもの。新型コロナウイルスが流行する以前に、ビル・ゲイツはあるテレビ番組のインタビューで、地球上の人口を減らす必要があるということを話しているそうで、そこからはじまってこの陰謀説ができあがったようです。
 またその他に、人口を減らすだけではなく、ワクチンを通してチップのようなものを体内に埋め込んで、世界中の人類を管理するという説もあります。

 そんな陰謀説を聞いてしまうと、”もしや?”と一瞬頭をよぎってしまうのが怖い。まともに考えればそれらの陰謀説がかなり嘘に近いことは分かっているはずなのに、どこかで本当かもと思ってしまう。そもそも陰謀説とは、もしかしたら本当かもしれないという、どこかで符牒が合うような側面があるからこそ陰謀説になるのであって、さらにそれが独り歩きしてまことしやかに語られるから、なおさらにひょっとしたらと感じてしまうのである。さらに昨今ではそれがSNSなどあちこちに拡散されて目にすることが多くなるので、だんだんと自分のなかで陰謀説が真実へと醸し出していってしまうのではないだろうか。

 新型コロナウイルスの陰謀説が飛び交う中で、今回ご紹介する『セルフ・クライシス』なる本を手にした。

侵入妄想という病

 本書のトーンは、簡単に言ってしまえば、行き過ぎた文明は人間を壊していくというもの。本書が書かれたのは昭和60年=1985年。この年はニンテンドーから『スーパーマリオブラザーズ』発売されたりと、コンピューターが身近になってきた頃。バブル経済がはじまり、日本が熱狂の渦に突入する前夜といったところです。大きな時代の変化に取り残され、文明の利器に脅かされる人も少なくなかったのかもしれません。

 そのような時代背景があるからなのか、著者の精神科の臨床では、すでに体の中にチップを埋め込まれるというような妄想にさいなまれる人がいたというのです。自分の心や体をスキャンされてすべてを見透かされる、そういった恐怖でおちおち生活もできないという人の例も。

 著者は、このような妄想・恐怖を「侵入妄想」と定義している。これが著者による造語なのかはわかりませんが、自分のなかに何かが入り込んでくる、そういった何者かに侵入され、監視されるという妄想。

 まさにこの妄想とは、新型コロナウイルスのワクチンで囁かれているチップを入れるというものと重なる部分が多い。似たような妄想は、様々なところで語られている。新型コロナウイルスの蔓延は5Gによるものとか、スマートメーターによる監視など、こういったものは本書の侵入妄想に通じるところがある。

 現在のこの時代にこういった侵入妄想が怖いのは、技術的に可能な領域に入っているからだ。一昔であれば、空想、妄想と分かるものが、ITやAI技術が進んだ昨今では、「もしかしたら?」から、「技術的に可能なんだからあり得る!」ということになってしまう。とても頭脳明晰な人であっても、こういった妄想に取りつかれてしまい、一気にそっちになだれ込んでしまうこともある。SNS、YouTubeで情報を収集するにしても、偏見の入った自分の癖で検索すれば、逆にその方向を強化する情報しか入ってこなくなるのだから、公平な視点というのはなかなか持つのが難しい。

 最初はおかしいと思う。
 そんなことはないと思う。
 しかし、少しずつその妄想が強化され、自分のなかで真実として形作られていく。

 本書は現代社会の行きつく先の妄想恐怖を予言しているように思えてならない。

新たな文明の進み方への模索

 本書は、著者が留学した時の経験談から始まり、自分という存在と、その存在を見つめる周りの目という関係を論じながら、侵入妄想という精神的な病からはじまります。そのため、本書を読み始めた当初は、そういった変わった精神病の解説や、よくありがちな行き過ぎた文明論に終始するのかと思いますが、そこから大きく飛躍して、生きることって何だろう、自分という存在とはどこにあるのだろうという、大きな視点に移っていきます。
 ここでいう飛躍とは、何の脈絡のないものではなく、ある特定の精神病といういわば狭いミクロの視点から、視点をもっと上空に引き上げていき、より広く生命という視点に変わるもので、しかも不連続な感じがしないもの。この視点の広がり方が、本書の価値の一つだと思います。

 この飛躍先には、これからますます進んでいく文明の利器に対して、私たちはどのように対峙していったらいいのか、そしてさらには、人間がお互いを理解しあえるために必要なこととはという考察にもつながっていきます。この大きな飛躍のところに、本書を読む価値があるかと思います。自分を失いかけている方、陰謀説に惑わされている方には、一度読んでみてはと声をかけたくなります。

※ 本書のなかには、人工授精に対してのネガティブな記述があります。また、今でいう“働く女性(著書のなかでは”進歩的女性”)”に対してのやや批判的な記述もあります。しかし、その先を読み進めていくと、それらが批判ではないことは分かります。むしろ女性というジェンダーの回復を願っているものなのですが、読んでいる途中で不快な思いをするかもしれません。この辺りは、時代がまだまだ成熟していないがゆえのものでもあり、著者の偏見ではなく、またこれらの記述によって、本書の評価が下がることはないと思われます。その点を考慮しながらも、本書をレビューする価値があると判断して掲載させていただいています。

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