誤解されていないか、ムツゴロウさん
ムツゴロウこと畑正憲氏がまだまだ精力的に活動していたころ、年何回かテレビで『ムツゴロウとゆかいな仲間たち』という番組がありました。当時北海道にあったムツゴロウ王国での生活や、ムツゴロウさんが世界各国に出向いて動物と触れ合うという内容で、かなり人気のシリーズでした。都会では味わえない大自然、思いっきり広い土地での生活・・・。実際に住んでみればさまざまな困難はあるはずだけど、年何回かお茶の間で観るだけだからこその憧れでもあったのだろう。
その人気番組もいつしか終焉の時を迎えたわけですが、その最終回だったかでは、ムツゴロウさんがライオンに指を食いちぎられるというアクシデントがありました。
ライオンがムツゴロウさんの指に嚙みついたのは、決して交流が持てなかったからではないし、ムツゴロウさんがライオンを甘く見ていたわけでもない。ライオンはカメラマンの動きに驚いて反射的に動いただけでだった。現に、指の応急処置から戻ってきたムツゴロウさんが再びライオンのところに行くと、ライオンは申し訳なさそうに下のほうで大人しくしていた。そしてそのライオンの姿を見て、ムツゴロウさんはライオンを悲しませてしまって申し訳なかったと涙を流していた。
ライオンに指をかまれたムツゴロウさんについて、当時は批判的な論調も一部ではあったように思う。しかし、むしろ、動物好きのムツゴロウさんがライオンによって指を失うという壮絶でショッキングな映像を、そのまま流す、その姿勢。自然の厳しさを伝えるためだったのか、自然との触れ合いは決して生易しいものではないというメッセージなのだろうか、それはそれで、最終回として締めくくるだけの深い意味があったのであろうと思います。
ムツゴロウさんの動物との触れ合い方はかなり過激(に見える)。
それ故に、お笑いのネタにされるなど、ある意味その姿は変人扱いされるところがあったと思う。お笑いの人たちも、そういったところに芸人としての琴線が触れてネタにするのだろうけれど、でも、私はそれを見ていてあまりいいものだとは思わなかった。あそこまで本気で動物と遊び、触れ合うというのは、並大抵のことではない。しかもそれは単なる遊びではなく、ムツゴロウさんとしてはそれもひとつの学問的な要素もあったわけであり、ムツゴロウ流の流儀であるのだから、それをお笑いで処理しようとするのは浅はかであるというもの。
テレビの中で動物と触れ合うムツゴロウさんも素敵であるが、ムツゴロウさんの真骨頂はエッセイにあると思う。軽快で、わかりやすく、それでいて後を引く含蓄がある。何冊か読んだことがあるけれど、こういった文章を読むと、ムツゴロウさんの動物とのふれあい方が、決して遊びではないことがわかろう。だからこそ、ムツゴロウさんについて誤解がないように、また、誤解したままではあまりにもったいないから、一冊は読んでほしいと思うのであり、それが今回ご紹介するものであります。
動物と触れ合うからこそ

なごやかな動物ものとしてみていた『ムツゴロウとゆかいな仲間たち』であったが、そこに映し出されていたムツゴロウさんの動物との触れ合いはただならぬ雰囲気があった。犬に顔を舐められるにしても、フレンチ・キスさながらの濃厚なものであった。
このような動物との触れ合い方をする人は、世界中を探しても見当たらないだろう。
しかもムツゴロウさんがすごいのは、それを単なるスキンシップとして終わらせないところだ。
無邪気に遊んでいるだけと思いきや、ムツゴロウさんのなかでは様々な考察が巡っている。好奇心だけでは終わらない、そこには実践的な科学の洞察がある。その洞察の結果はテレビ番組の中でもムツゴロウさん自身が語っているが、それはテレビという特性からだろう、やや物足りなかった。もっと深いところでムツゴロウさんが何を感じ、何を思い、何を結論付けたかは、やはり著書を読むしかないのではないかと思う。
ここでご紹介している『人という動物と分かりあう』は、それをダイレクトに語ってくれている。
一見すると単なる動物好きの変態おじさんの戯れと思われる行動の中に、ムツゴロウさん本人にしか到達しえない境地があり、そこの場所からだけしか見えない光景がある。
本書は、ムツゴロウさんがとりとめもなく、これまでの経験のなかから、ひらめくがままに語っていく、それがためのリズミカルで、厳しくも、暖かい視線がちりばめられている。読後は、タイトルの「人という動物と分かりあう」という意味合いがじんわりとしみわたり、しばらくは呆然と立ち尽くしてしまう。
年齢や職業など関係なく、多くの方に読んでほしい一冊であります。
著者のその他の本
これまでのレビュー
John Doe
レビュアープロフィール

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コガネブックス店主
本が好きで、ついつい買ってしまう。。
本業は鍼灸師・国際中医師で、東洋医学畑の人間です。
体について、心についてといった本業に関係する本を読むことが多いですが、その他にも旅、食べ物などいろいろと。
東京の表参道で源保堂鍼灸院の院長をしている。
また、登録販売者であり国際中医師でもあり、薬戸金堂という漢方薬店の店主でもある。
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