旅はまだ健在なのか
私的なお話から初めて恐縮ですが、私は学生の頃バックパッカーでインドやネパールなどを歩いていました。
当時は猿岩石がテレビ番組でヒッチハイクをしていて、バックパッカー的なことがやや注目されていたときでもありました。特に若者のアジアへの視線は今よりも熱かったように思います。アジアの旅の初級編としてタイは人気で、タイ航空のCMにTOKIOの長瀬智也が出てたように記憶していますが、そんなところにも当時の若者にとって、アジアへの旅が注目されていたことが分るかと思います。
自分はそんなことが影響したことはさらさらなく、ただ世界を観たい、そしてそこで写真を撮りたい、そんな気持ちだったと思う。その頃は危うくも仏教に興味を持っていたので、ブッダへの祈りが日常にあるアジアの国々に惹かれていた、というのもあったかもしれません。
もっといろんなところに行きたいと思いつつ、お金のこととか、治安はどうなのかなとか、就職活動もあるしなとか、いろいろと言い訳をしてしまって、中途半端な感じでバックパッカー時代を終えてしまった。今思うと、誰かに借金してでも、どこまでも行っておいた方がよかったなと思う。あのとき、あの瞬間の、あの世界はもはやもうここにはない。まともに就職できない時代だったし、そもそもそういったことへの憧れもなかったんだから、もっと積極的に世界を歩けばよかったなと思う。
そういう未踏の国への憧れ、その一つが中国であった。
当時の中国は今よりも閉鎖的だったように思うし、天安門事件などもあったりしたので、個人で気軽に旅をする雰囲気ではなかった。いや、もしその当時でも自分が行きたいと思ったらその手立てはあったと思うのだが、自分はそこでひるんだのだ。
それはさておき、今は中国のことが好きだから、奥地に行ってみたい。
もしまだそこに、“旅”があり、未体験の世界があるのなら。
現代の桃源郷なのか
Netflixで、中国の郷土料理を取り扱ったドキュメンタリー番組がある。
邦題は『美味の起源』
これがまためちゃくちゃ面白い。
そして、その景色がとてもいい。
それぞれの料理も、とても手が込んでいて、とにかく下ごしらえがすごいのだ。
下ごしらえのような地道な作業は、日本人のお家芸かと思っていたけど、なんのなんの、このドキュメンタリー番組を見る限りでは、はるかに中国のほうが上だ。徹底してこだわっている。ルーティン、使う器具、季節や時間帯など、全てがその料理、食材のために貫かれている。これは正直恐れ入る。
ということで、著書を
このブログは“エア本屋”。
やはり本のご紹介をせねばなりません。
映画を観終わった後、やはり何か一冊でも読んでみようと、『へたも絵のうち』を手にすることにしました。
こちらの『へたも絵のうち』は、日本経済新聞の名コーナーである「私の履歴書」に本人が話したものをまとめたもの。おそらく口述筆記なのだろうけども、そこは本人の意図や雰囲気を崩さないように、もちろん誇張もなく真実が語られている。
生い立ちから東京藝術大学へ進学していく過程や、そこで出会った青木繁などの学生との交流やエピソード。このあたりの交流の話は、日本の近代美術史の貴重な裏話ではないかと思います。
熊谷守一氏は、年の離れた女性と結婚後、何人か子供をもうけているものの、そのうちの数人を亡くしています。そのときの悲嘆にくれたお話などは、読んでいてもその悲しみが伝わってくる。ありていに言えば、芸術家であるための人生の流れの一つなのかもしれない。が、しかし、それは熊谷守一という人物の一生を振り返ってみるからこそ感じるものであって、それはそれ以上の人生の試練であって、深い悲しみなのだ。
そういったいろいろなことを経ながら、年齢とともに画風が変わり、そして、年老いてからますます名声が高まっていくというその孤高の存在は、なかなか他に類はない。
戦後を代表する芸術家が、どのような道を歩み、どのような制作活動をして来たのか。
晩年はどのように日々を送っていたのか、映画も併せて読んで、観てほしいなと思うのであります。
https://www.netflix.com/jp/title/80991060
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レビュアープロフィール
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コガネブックス店主
本が好きで、ついつい買ってしまう。。
本業は鍼灸師・国際中医師で、東洋医学畑の人間です。
体について、心についてといった本業に関係する本を読むことが多いですが、その他にも旅、食べ物などいろいろと。
東京の表参道で源保堂鍼灸院の院長をしている。
また、登録販売者であり国際中医師でもあり、薬戸金堂という漢方薬店の店主でもある。
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