『駆け込み女と駆け出し男』
原田眞人監督・大泉洋・戸田恵梨香主演
そんな軽い映画ではない
まず初めに思うのは、この映画は、封切り当初はどのような宣伝のされ方をして、どのような評価がされたのだろうか?ということ。
まずはじめに、この映画のポスターを見たときに、内容はとても軽いのだろうなと思った。コメディなのかと思うような、そんな感じがした。そしてタイトルも、『駆け込み女と駆け出し男』というトンチが利いたような軽目の印象を与える。
しかし、そのポスターやタイトルから受ける印象に比して、この映画の内容はとても濃い。そしてどの俳優も真剣そのもので、ブレた演技など一つもない。軽く観はじめたりしたものなら、なんだか場違いなところに来てしまったような気がしてくるだろう。興行収入がどれだけかわからないが、おそらくそれほど入らなかったであろうし、その後も話題になることなくひっそりとしている作品ではないだろうか。
タイトルは原作の『東慶寺花だより』のままで良かったような気もするし、ポスターだってもっとシリアスなものにしていいと思うのだ。監督がそのようにしたのか、それとも営業面からこのようにしたのか、それは分からないが、かなり残念なプロモーションだったんだろうなと思う。もっと大事に、もっと詰めをしっかりしておけば、もっと評価は変わっただろうに・・・。原作は、井上ひさしが何年も構想を練って書き上げたものであるから、その内容がそんな薄いわけがない。むしろ、それだけの時間をかけてどこまでも丁寧に、どこまでも慎重に書き切っているのだろうと想像がつくのだから、映画制作者もそこをしっかりと汲み取っていれば、このような残念なポスターとタイトルにはならなかったのではないだろうか。ポスターもタイトルも、いずれもこれから映画を観ようとする人々への最初の接触点なのだから、ここで齟齬をきたしてしまったのは誠に残念としか言いようがない。
最後は愛情
男性は、プライドの生き物だと思う。
大なり小なり、周りの男と比較して生きている。
いわゆる世間体というものをすごく意識するし、世間一般との競争意識もどこかあると思う。
そんなプライドの塊である男性が、自分の精子についてダメ出しをされてしまったら、それはもう奈落の底に突き落とされたような気持になるのは当然なのだ。プライドはズタズタにされ、一気に不妊治療へのやる気は削がれていくものだ。それを考えると、まさか不妊の問題が自分にあるとは思わないし、思いたくないものだ。
でも、そこを超えることなくては男性不妊はじまらないのだ。
そこを乗り越えれば、光明が出てくる。
このプライドを乗り越える必要があるのが不妊治療なのであり、男性不妊なのだと思う。
本書は、男性不妊を認めたくない人、認めても心がどこか穏やかでない人に読んでみてほしい一冊。
なぜならば、著者は、プライドこそ命である男性の中でも、最も“男としてのプライド”を前面に押し出す職業ともいえるロックシンガーである。レッドウォーリアーズといういち時代を築いたダイヤモンド・ユカイ氏が、恥も外聞もなく赤裸々に自分を語っている姿は、プライドを捨てた男の美しさすら感じる。いや、プライドを捨てたこの姿こそ、真の男のプライドなのかもしれない。ダイヤモンド・ユカイ氏が心静かに採精に向かうところは、最も愛情を感じるシーンの一つであります。
根底にある愛情、そこに立ち向かう勇気、そいうったものを端々に感じることができる本書は、どんな輝かしいことを語っているロックシンガーのものよりも、どこまでも愛のあるロックな一冊ではないだろうか。
本書は地味ながらも、とても愛情に満ちた本であると思うのであります。
とくに、これから不妊治療に立ち向かおうと思っている男性の方にはおすすめであります。
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この記事の読書人

瀬戸郁保
東洋医学・中医学を専門にしながら、興味のある分野のものをまたいで読んでいる雑食系です。人生後半戦に入ったので、ブログもどこまで続けるのか考えるけれど、それはそれで昔書いたブログの記事を読むと、やっぱりよかったなって思う日々。